「羊をめぐる冒険」の翻訳(111)
1 映画館で移動が完成される。いかるホテルへ(3)僕は反射的にいわしのことを思い出した。いわしのことを思い出したところで、やっと僕は自分が東京を離れて札幌にいることを思い出した。逆に言えば、誰かのおならの音を聞くまで僕は自分が東京を遠く離れたことを実感できなかったわけだ。
不思議なものだ。
そんなことを考えているうちに僕は眠ってしまった。夢の中に緑色の悪魔が出てきた。夢の中の悪魔は少しも微笑ましくはなかった。闇の中で黙って僕をみつめているだけだった。
映画が終って場内が明るくなったところで僕も目覚めた。観客は申しあわせたように順番にあくびをした。僕は売店でアイスクリームをふたつ買ってきて彼女と食べた。去年の夏から売れ残っていたような固いアイスクリームだった。
「ずっと寝てたの?」
「うん」と僕は言った。「面白かった?」
「すごく面白かったわよ。最後に町が爆発しちゃうの」
「へえ」
映画館はいやにしんとしていた。というより僕のまわりだけがいやにしんとしていた。奇妙な気分だった。
「ねえ」と彼女が言った。「なんだか今ごろになって体が移動しているような気がしない?」
そう言われてみれば実にそのとおりだった。
彼女は僕の手を握った。「ずっとこうしていて。心配なのよ」
「うん」
「そうしないと、どこかべつのところに移動してしまいそうなの。どこかわけのわからないところに」
場内が暗くなって告編が始まったところで、僕は彼女の髪をかきわけて耳に口づけした。
「大丈夫だよ。心配しなくてもいい」
「あなたの言ったとおりね」と彼女は小声でいった。「やっぱり名前のついた乗りものに乗るべきだったのよ」
二本めの映画が始まって終えるまでの一時間半ほどのあいだ、我々は暗闇(くらやみ)の中でそんな静かな移動をつづけた。彼女は僕の肩にずっと頬を寄せていた。肩が彼女の息で暖かく湿った。
我条件反射性地想起了叫沙丁鱼的猫。在想起沙丁鱼猫的时候,突然连想起了我离开东京来到了札榥。反过来讲,截止到听到谁的屁声之前还没有真实感受到自己远离东京的实感。
真是不可思议。
在想着那些事情的时候我睡着了。在梦中那个绿色的恶魔出现了。梦中的恶魔没有一点微笑。在黑暗中默默地死盯着我。
在放映结束场内变亮的时候我也醒了。观众们像是协商好了似的轮番打哈欠。我在小卖店买了两块冰激凌,和她一起吃。像是去年夏天卖剩下的那么坚硬的冰激凌。
“你一直在睡吗?”
“是的。”我说。“那电影好看吗?”
“非常有趣。到最后城市爆炸了。”
“什么?”
电影院是那样的安静。也许只是我的周围是那样的安静。有一种奇妙的感觉。
“那个,”她说。“不知什么原因你没有感觉到吗?到现在身体像是在移动着。”
真是的确像她说的那样。
她握住了我的手。“感觉一直是这样,你害怕吗?”
“没有。”
“若不是那样的话,像是移动到了别的什么地方。到了不明白的地方。”
场内变暗起来,放映到予告片时,我把她的头发分开吻起她的耳朵。
“没关系的。不用害怕。”
“希望就像你说的那样。”她小声说。“还是要乘坐起好名字的交通工具为好。”
从第二场电影的开始到结束的一个半小时的时间里,我们在黑暗中一直那样安静地持续移动着。她的脸一直贴靠在我的肩上。因为她的呼吸我的肩温暖湿润了。
电影并不吸引人,在放映第一部的时候,主人公睡了。在放映第二部的时候,主人公爱了。